気仙で暮らし、働く

当事者として復興・まちづくりに携わりたいと移住した気仙での日々のこと、暮らしのことをつづります。

大統領の耳にささやく男

西アフリカ関係者必読のJeune Afrique紙がこう名付けた男がいる。

コートジボワールの政治家って、私が今まで会った中で最も難しい職業じゃないかと思うことがある。突然50年前に線を引かれた四角い地域のなかにいた60以上の民族が、はい、君たちが今日からまとまって国として独立しなさい、と言われたかと思えば、日本の1/100の予算で、日本の1/5の人口を養って行かなければならないし、それまで厳しい自然のなかで民族としての統治ルールのなかで平和に生きてきたにも関わらず、民主主義なるもののを与えられ、国を運営しなければならないからである。

そして、3年前の記憶に新しいとおり、一つのほつれは、涙を流しながらの辞職でほとぼりさめれば復活なのではなく、良くて亡命、悪ければ暗殺に直結する、そういう世界を生きているのである。

そんな命をかける政治家の判断を支える男がいる。政治家筆頭、ワタラ大統領は、政策判断のために自分専属の特別アドバイザーを置いていて、そのなかでインフラ分野を努める人物が、「大統領の耳にささやく男」と呼ばれている。文字と役割どおり、国のインフラ政策の意思決定を担う人物である。

そして、このインフラの4文字が示す通り、当然プロジェクトも色々、影響を受ける。さすがに命をかけている人を支えてるだけあって、こんなツメツメの仕事をするコートジボワール人、見たことがない。

まず、とにかく情報収集に余念がない。それは人口の数であったり、将来予測であったり、道路の線の弾き方であったり、時にプロジェクトを越えて「日本で良い事例はないか」など、とにかく情報に貪欲なのである。

そして、その権力は絶大なのである。政府のパートナーや日本人があの手この手で情報を手に入れようとしても、3ヶ月たっても何も入手できない、なんてことはザラな世界で、鶴の一声とは、まさにこのこと。すぐに情報が手に入るのである(それが、存在していれば)。

そして、とにかく正論なのである。議論はプロジェクトを自分のものにするため、議論のなかから良いアイデアが生まれて行くとのモットーで、コメントが的を得ていないと「質問に答えていないやり直し」なんて、さすがのコートジボワール人もしゅんとするやり取りが繰り広げられる。

ということで、このささやく男との打合せがある日は、私も政府のパートナーやスタッフに色々聞きながら、作戦を練っていく。

「いや、本当に助かってるよ。毎回こうやってつきあってくれてありがとうね」

打合せの前にしんみりとお礼を言うと、

「はは、僕は「マダムの耳にささやく男」だからね。いつか、Jeune Afrique紙にのれると思ったら安いもんだよ。マダムとのこの厳しいやり取りで、大分事前に調べたりするようになったよ。」

なんと、すいません。割となまぬるい中を生きている生粋の日本人ですが、これは期待に応えない訳にはいかない。

「そうね。30年後、Jeune Afrique紙に2人でのれるよう頑張りましょ」

「30年かぁ!長いなぁ」

「そうだよ。ワタラ大統領は73歳、ささやく男は62歳じゃない。まだまだよ。」

ということで、30年後をお楽しみに。